「悪(役)」について考える。

   先日、Netflixオリジナルシリーズの『ハウス・オブ・カード』シーズン5が配信されました。主人公のフランク・アンダーウッドを演じるのは、オスカーに2度輝いている名優ケヴィン・スペイシーです。(作品自体については、以前に記事にしているのでそちらを参照してください。) 

フランクは、持ち前の巧みな話術とキレる頭脳をいかして、アメリカ大統領の座を奪うためにあらゆる手段を尽くします。

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 『ハウス・オブ・カード』は政治ドラマですが、もっと広義で解釈すると、ピカレスク・ロマン(悪漢)と呼ばれるジャンルにあたります。これは16世紀〜17世紀にスペインで流行った小説の形式です。簡単にいうと、要は悪役がメインキャラとして活躍するというジャンルです。最も有名なのは、怪盗アルセーヌ・ルパンでしょう。映画でいえば、ハワード・ホークス監督の『暗黒街の顔役(1932年)』とそのリメイク、ブライアン・デ・パルマ監督の『スカーフェイス(1983年)』でしょう。(ちなみにピカレスクの対義は、ドゥングス・ロマンです。)

ピカレスクにおいて主人公は悪漢なわけですから、悪役が魅力的でないといけないのは当然のことです。またドゥングスにおいても、悪役が魅力的でなければ、主人公は成り立ちません。つまりどちらであろうとも、悪役というものは魅力的でなければならないのです。

 

   僕が「魅力的な悪役」で最初に思いついたのが、クエンティン・タランティーノ監督、ブラッド・ピット主演の『イングロリアス・バスターズ(2009)』よりハンス・ランダ大佐です。

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演じたのは本作の演技でアカデミー助演男優賞を受賞したオーストリアの俳優クリストフ・ヴァルツです。(ちなみに彼は、2012年に同監督の次作『ジャンゴ 繋がれざるもの』にて再びアカデミー助演男優賞を受賞しました。)

ランダ大佐の魅力も、『ハウス・オブ・カード』のフランクに似ています。

ランダ大佐は推理力が長けており、話が上手く、言語の天才です。(ネタバレしたくないので、敢えてこういう歯に物の詰まったような言い方にしておきます。) それらを武器に、ユダヤ人らを恐怖に陥れます。しかも見た目は紳士的で愛想もいいのですが、実は中に非常に冷徹な心を持っているというギャップも非常に恐ろしいです。

僕は『イングロリアス・バスターズ』は本当に大好きな作品の1つですが、それもクリストフ・ヴァルツの演技なくして語れないぐらいという彼の演技は本当に素晴らしいです。(現に、監督・脚本のクエンティン・タランティーノに自分の創造したキャラの中でランダ大佐が最も好きで、クリストフ・ヴァルツがいなければ『イングロリアス・バスターズ』は作らなかったと言わしめました。)

 

 

   悪役の魅力には、もちろん見た目も大きく関係してきます。それらを含めて、古今東西全ての悪役の頂点に君臨するのは、間違いなく『スター・ウォーズ(1977)』のダース・ベイダーでしょう。映画を見たことがない人ですら誰もが知っている悪役です。

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日本の侍の甲冑に影響を受けたといわれるヘルメットをはじめ、全身黒づくめのコスチュームに、マント、そしてあの独特の呼吸音。

これは非常に有名なエピソードですが、ダース・ベイダー初登場のシーンでは、船内と手下のストームトルーパーは真っ白です。その中から登場する全身真っ黒のダース・ベイダーインパクトは、コントラストと相まって凄まじいものでした。

https://youtu.be/MftSEu4vgg0

(ダース・ベイダー初登場シーン)

そのほか、アートデザイナーの高橋ヨシキさんがあるコラムにて「身体の欠損や障害も悪役の特徴の1つである」と述べていました。確かにその通りです。

例えば、片手、片足、片眼を失っている海賊などがいい例です。(『ピーターパン』など)

身体の欠損、障害は、ビジュアル的なインパクトと、そこから物語を構築しやすいという理由からポピュラーである、と高橋ヨシキさんは述べています。

それでいうと、先ほど例に挙げたダース・ベイダーもそうです。あのヘルメットは人工呼吸器でもあり、それがあの独特の呼吸音を生み出しています。さらにそこからストーリーが発展し、のちにダース・ベイダーのプリクエル(前日譚)が作られました。

身体の欠損、障害のある悪役の直近の例でいうと、あの大傑作『マッド・マックス/怒りのデス・ロード』の悪役イモータン・ジョーが挙げられます。

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というわけで、今回は簡単ではありますが悪役について紹介しました。皆さんも小説や映画を見るときは、主人公だけではなく(ピカレスクの場合は言うまでもないですが)悪役に注目してみてはいかがですか?