Netflixオリジナル作品『13の理由』

   前回の記事で、今海外ドラマ特にNetflixをはじめとするストリーミングサービスオリジナルシリーズが熱いという話をしました。今回もNetflixオリジナル作品の話です。

 

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『13の理由』 (原題: 13 Reasoms Why)

製作総指揮: セレーナ・ゴメス、トム・マッカーシー

Netflixにて全13話配信中。

予告編: https://youtu.be/JebwYGn5Z3E

あらすじ: 主人公のクレイ・ジェンセンはシャイな男子高校生。ある日、彼が学校から帰宅すると郵便受けに小包を発見する。中身は13本のカセットテープ。そこには最近自殺したクラスメート、ハンナ・ベイカーの肉声が録音されていた。その内容は、ハンナの自殺に関係した13人についての独白で、13人の中にはクレイも含まれていた…。

 

   今年3/31よりNetflixにて配信開始となった、この『13の理由』。作家ジェイ・アッシャーによるベストセラー同名ヤングアダルト小説の映像化です。製作総指揮に女優で歌手のセレーナ・ゴメスが参加していることもあり、以前から話題になっていました。

 

   この原作のヤングアダルト小説(ティーンエイジャー、いわゆる10代をターゲットとした小説のこと)は2007年に全米で出版されベストセラーとなったのですが、そのあまりに過激な内容に各学校や図書館にて取り扱い中止を求める苦情が殺到したそうです。上記のあらすじを読むとある程度勘付く人も多いかと思いますが、今作はハンナ・ベイカーという女子高生が自殺した理由、つまり「いじめ」がテーマの物語です。ただご存知の通りその手のヤングアダルト小説は山のようにあります。では『13の理由』のどこが他と違うのか?

1つは物語の設定にあると思います。「自殺した女性がカセットテープを残した…」といういわゆる謎解き形式のプロットは、はっきり言って非現実的ですよね。しかしこれはノンフィクションではありません。見る人を惹きつけるための設定として素晴らしいと僕は思います。

全13話の今作は大きく分けて、男子高校生クレイが主人公の現在パートと、自殺した女子高生ハンナが主人公の過去(回想)パート(カセットテープの内容)の2つに分かれ、それがいったりきたりして同時進行しながら話が展開していきます。その中であらゆる伏線が回収されていきます。このように謎が謎を呼ぶ設定やいじめがテーマの話というのは不謹慎なのは分かっていますが、あえて言うといつの時代も非常に人気が出やすいジャンルなのです。

ですから今作も最初は面白半分で見始める人が大半かもしれません。しかし、これは見始めると分かるのですが、この『13の理由』は「いじめ」に限らずだんだんさらに重たいテーマへとなっていきます。(もちろんいじめが重たいテーマではない、という意味ではありません。) 例えばエピソード9ではオープニングクレジットの前に「今エピソードには過激な性的暴力描写を含みます。ご視聴は視聴者の判断に委ねます。」というテロップが出ます。さらにラストの2話は思わず目を瞑りたくなるような描写が続きます。これは何のことでしょうか?ずばり、「レイプ」です。

これについては少し背景を解説する必要があります。日本でも最近若干話題になってきたように思えますが、アメリカでは高校生、大学生のレイプが非常に大きな問題となっています。これについては、レディー・ガガが主題歌"Til It Happens to You"(アカデミー歌曲賞ノミネート)を提供したドキュメンタリー映画『ハンティング・グラウンド』にて、非常に生々しくリアルに描かれています。『13の理由』では、レイプの直接的な描写の他、『ハンティング・グラウンド』でも描かれていたようなレイプがいかに恐ろしいかということが非常にリアルに描かれています。これについては製作陣や役者がインタビューにて語っていますが、専門家や医者、実際の被害者等を交え、最も細心の注意を払って撮影したそうです。実際にレイプされるシーンで被害者の顔にカメラが寄り、その表情を画面いっぱいいっぱいに映す演出はあまりの執拗さに胸が張り裂けそうでした。しかしそのリアリティこそ、製作陣やキャストが望んでいた、視聴者に現実を伝えるという目標達成の鍵なのです。こういったデリケートな話題は通常のスタジオでは作りにくいため、Netflixが製作として関わったのは本当に素晴らしいことです。(詳しいことは前回の記事にて)

 

    これ以上はあまり内容に触れずに製作過程等について話していきます。

まずこの『13の理由』の企画の過程ですが、インタビューによると原作に惚れ込んだセレーナ・ゴメス自身が2011年に企画を持ち込み、もともとはユニバーサル配給で映画化として企画されており、当初の予定ではセレーナ自身が自殺した女子高生ハンナを演じる予定だったそうです。しかし企画が二転三転し、7年かけて最終的にNetflixが製作に加わり全13話のテレビシリーズとなりました。セレーナはハンナ役を別の女優に譲り、実の母親であるマンディ・ティフェイさんとともに製作総指揮に回ることとなりました。この企画をセレーナ・ゴメスが持ち込み、実現にこぎつけたということは非常に意義があります。というのもセレーナとその母親は2人とも過去にいじめを経験しているからです。おそらく日本ではジャスティン・ビーバーの恋人ぐらいしか知られてないかもしれませんが、彼女はもともとディズニーチャンネルのスターとしてキャリアをスタートさせた人です。そのときにいじめを受けていたことを告白しています。

Instagramで世界一のフォロワーを持つセレーナ・ゴメス。そんな彼女がこのような形でその知名度を使うのは、素晴らしいことです。

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(左からハンナ役女優、製作総指揮セレーナ・ゴメス、クレイ役俳優)

   

 

   さらにもう1人注目すべき人物がいます。製作総指揮にクレジットされている(最初に黒太字にした)トム・マッカーシーという人物です。彼は今作のエピソード1と2では監督もしています。このトム・マッカーシーという人は、昨年度のアカデミー賞にて作品賞、脚本賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』の監督、脚本を担当した映画界の人物です。(映画業界の人物がテレビ界に流入している話は以前の記事でもしました。) 彼が『スポットライト 世紀のスクープ』の後に監督、プロデュースした作品がこの『13の理由』だったことも凄く意味のあることです。

ここで軽く、『スポットライト 世紀のスクープ』の紹介をします。

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スポットライト 世紀のスクープ(原題: Spotlight)』(アカデミー賞受賞)

監督: トム・マッカーシー(アカデミー賞ノミネート)

脚本: トム・マッカーシー(アカデミー賞受賞)

出演: マイケル・キートンマーク・ラファロ(アカデミー賞助演男優賞ノミネート)、レイチェル・マクアダムス(アカデミー賞助演女優賞ノミネート)他

予告編: https://youtu.be/EwdCIpbTN5g

あらすじ: 舞台は2001年、アメリカはボストン。新聞紙「ボストン・グローブ」は新しい記者を雇い、少数精鋭のチーム「スポットライト」へ配属されます。そこは独自調査し、調査報道のコーナーを担当していました。新しい記者であるマーティーは、カトリック神父による幼児虐待隠蔽のコラムを読み、これを独自に調査することとします。

最終的に2002年に彼らによって、ものすごい数のカトリック教会による幼児への性的虐待が暴かれました。この大スキャンダルが公となり、カトリック教会は正式に謝罪することとなりました。

 

ここまで読めば分かるかと思いますが、なんとこれ恐るべき実話なのです。この事件の一連の経過は非常に恐ろしいと同時に非常に面白いのですが、時間がかかってしまうのでここでは省略します。しかしこの『スポットライト 世紀のスクープ』でも性的虐待(レイプ)の恐ろしさが非常に生々しく描かれていました。

 

今まで書いてきたように『13の理由』は非常にキツいように思えますが、僕はラストシーンが凄く気に入りました。インタビューにて製作陣はこう語っています。

「この作品は作中と同じ世代のティーンにはもちろん、親御さんや学校の先生なんかにも見てもらいたい。重いテーマのうえ辛いシーンもたくさんあるが、ラストのシーンはとても気に入っているよ。この作品が何かの行動へのきっかけになってくれれば嬉しい。」

 

   いわゆる「お涙頂戴」のヤングアダルト小説に終わらない、この『13の理由』。近年傑作を連発するNetflixからまたしても素晴らしい作品が生まれました。この記事を機にたくさんの人が見てくれることを願っています。