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『ラ・ラ・ランド』はなぜ作品賞を逃したか? 作品賞を受賞した『ムーンライト』とは?

   先日、第89回アカデミー賞が終了しました。授賞式前日まで、『ラ・ラ・ランド』一色になることが予想されていましたが、蓋を開けてみるとかなりバランスの取れた結果となりました。さらにクライマックスの作品賞の発表では封筒の「渡し間違い」(あれは読み間違いではありません。) によって、作品賞を逃した『ラ・ラ・ランド』も受賞した『ムーンライト』にとっても、かなり後味の悪い終わり方となりました。しかし間違いとわかった後、『ラ・ラ・ランド』のプロデューサーがすぐさま『ムーンライト』のキャスト、クルーを壇上に上がるよう促す姿はとても素晴らしかったです。『ムーンライト』のキャスト、クルーも『ラ・ラ・ランド』圧倒的優勢だったので、本当に嬉しいサプライズとなったに違いありません。

ところでアカデミー協会は今回を機に運営体制を見直すべきです。本番であんな凡ミスをすることは許されません。ただ実際の票集計は、プライウォーターハウスクーパースと呼ばれる大手の会計会社が行なっていたのですが。笑

   

   さて、簡単ではありますが結果をまとめてみましょう。まず大本命だっ『ラ・ラ・ランド』が主演女優(エマ・ストーン)、監督(デイミアン・チャゼル)、撮影、美術、作曲、歌曲賞の計6つで最多受賞。(ノミネートは13部門) 次点に『ムーンライト』で作品、脚色、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)の3部門。その次が『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で主演男優賞(ケイシー・アフレック)と脚本賞を受賞しました。

『ラ・ラ・ランド』が作品賞を逃したのはもちろんですが、当確と言われていた録音賞や衣装デザイン賞、編集賞も逃したのはかなりビックリしました。この3つは事前に発表される組合賞は受賞していたので。しかし、ここから改めて今のアカデミー賞やハリウッドがどういうものかが見えてきます。

 

   1つ目は特に『ラ・ラ・ランド』が当確と言われていた技術賞3つを逃した理由ですが、『ラ・ラ・ランド』を作ったデイミアン・チャゼル監督が若すぎた、というものです。何度も言っていますが、アカデミー賞というのは同業者による内輪投票です。やはり同じ舞台で活躍する同業者として、自分より若い人に入れたくないのは人間の心理ですよね。もちろんこれは演技部門にも同じことが言えます。特に助演部門はずっと若い役者は受賞どころか、ノミネートすら厳しいと言われています。例えば、一昨年の『ルーム』という作品。主演のブリー・ラーソンは主演女優賞を受賞しましたが、同じように眼を見張るような素晴らしいパフォーマンスだった子役のジェイコブ・トレンブレイくんはノミネートすらされませんでした。そしてこういったものが少なからず、今年の受賞結果を左右したようにみられます。『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督は今年監督賞と脚本賞にノミネートされていました。脚本賞こそ逃したものの、監督賞を史上最年少(32歳)で受賞しました。監督賞をあげたんだから、作品賞は勘弁してくれというアカデミー会員の心の声が聞こえるように思えます。笑 

 

    そして『ラ・ラ・ランド』が作品賞を逃した理由にはもう1つ大きな要因があります。おそらくこっちの方が大きく結果を左右にしたように思えます。

前回のアカデミー賞で、#oscarsowhite というハッシュタグが流行りました。これは主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞助演女優賞のノミネート20枠に黒人俳優が1人も入らなかったことへの抗議的な意味合いがありました。それに対して今年は助演部門を中心に多くの黒人俳優がノミネートされました。

ただ僕はこれに関して少なくとも昨年のアカデミー賞に関しては、ノミネートに相応するような俳優がいなかったため黒人俳優のノミネートが0だったと思うのです。ただ、今年は黒人俳優のパフォーマンスが素晴らしく、助演部門を受賞したのは両方黒人俳優でした。受賞こそ逃したものの、主演男優賞にノミネートされていたベテラン俳優デンゼル・ワシントンの演技も凄まじかったです。

また授賞式では、黒人が受賞した部門(助演男優賞助演女優賞、脚色賞)全てでスタンディングオーベーションになりました。例年通りであれば、こんなことはまずあり得ません。

アカデミー協会は、近年とくに先に書いた#oscarsowhiteつまり「白すぎるオスカー」をうけて、今年からアカデミー賞の選考員である会員を人種多様な600人以上を増やしたりするなどハリウッドの多様性を目指しています。もちろんこれは今のアメリカの政治的背景にも起因しています。今年の授賞式はかなり政治色が強かったです。司会者のジミー・キンメルをはじめとし、多くのプレゼンターや受賞者がトランプ政権へ、直接的ないしは揶揄する形で批判していました。外国語映画賞を受賞したイラン出身の監督は、先のイスラム7カ国入国禁止を受けて授賞式を辞退、代理の方がスピーチを読みました。こういった社会的背景が作品賞選考にも大きく影響したと考えられます。もちろん人種だけではありません。LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャルトランスジェンダーの頭文字を取った造語)の権利も脅かされています。ご存知の方も多いかもしれませんがアメリカの一部の州(具体的にはノースカロライナ州テキサス州など)では、LGBTに反対するような法案(バスルーム法案)を通そうとしています。これに対し、多くのセレブ達が反対の声明を出しています。

『ムーンライト』の主人公は、ゲイで黒人というマイノリティのお話です。この作品がアカデミー作品賞を受賞するというのは、やはりかなり社会的な意味合いがあるのです。

    

   それでは、いよいよ『ムーンライト』について紹介します。

 

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『ムーンライト』(原題: Moonlight)

監督: バリー・ジェンキンス

脚本: バリー・ジェンキンス、タレル・アーヴィン・マクレーニー

製作総指揮: ブラッド・ピット

出演: マハーシャラ・アリナオミ・ハリス

あらすじ: マイアミに暮らすゲイで黒人の少年が、暴力と貧困の中で成長する姿を少年期、多感な10代、大人へと踏み出す20代、の三幕構成で描く。

日本公開: 3/31 

 

   この作品は『ラ・ラ・ランド』とほぼ対極にあるような映画です。製作費は約5億ドルなので、日本映画とほぼ同じくらいですし、扱っているテーマも『ラ・ラ・ランド』が明るくて楽しいものなのに対し、『ムーンライト』は非常にデリケートでシリアスな題材を扱っています。『ムーンライト』の脚本は、シナリオライターの2人の実際の体験を元に脚色し、出来上がったそうです。ですから全てが実話というわけではありませんが、かといって全く非現実的か、というとそういうわけでもないのです。今年度、今作で助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリは初めてこのシナリオを読んだとき、感動のあまり号泣したそうです。

 

   さて、作品の内容に関しては劇場で観ていただくこととしてここでは別の視点から『ムーンライト』をみていきます。最初にゴシック体で書きましたが、この『ムーンライト』製作総指揮としてブラッド・ピットの名前がクレジットされています。ブラッド・ピットと言えば、僕のオールタイムベストの一本でもある『ファイト・クラブ』や同監督による『セブン』などで知られる俳優ですが、それと同時に、いやもしかしするとそれ以上に、プロデューサーとしての腕が抜群なことで知られています。2013年にアカデミー作品賞を受賞した『それでも夜は明ける』では出演、製作として携わり、自身もプロデューサーとして見事アカデミー賞を受賞しました。この『それでも夜は明ける』という映画は、アメリカ南北戦争時代の黒人奴隷を描いた作品です。かなり過激な描写等も含まれ、題材もかなりセンセーショナルな題材だったため、多くのメジャースタジオが企画を断ったそうです。しかし、その企画を実現に導いたのがブラッド・ピットだったのです。彼はこの企画を自身のネームバリューを使い、必死にスタジオへ売り込み、見事実現させアカデミー賞を受賞しました。

そして、今回も同じように黒人の苦悩を描く非常に社会的な映画でまたしてもアカデミー賞を受賞したのです。

(ちなみに余談ではありますが、先に書いた『セブン』ではデビッド・フィンチャーを監督としてブラッド・ピットが招へいし、彼の映画監督としてのキャリアを復活させました。) 

今回もやはり、プロデューサーとしてのブラッド・ピットの目利きが素晴らしかったということでしょう。 

『ムーンライト』実は技術的にも凄く革新的なことをしているのですが、誰も興味ないと思うのでここでは省略します。分かりやすいところで言えば、とにかく子役を含めた全ての役者の演技が本当に素晴らしいです。

日本人にはあまり馴染みのないテーマですし、決して万人ウケするような映画ではないかもしれませんが、確実に観る価値のある素晴らしい映画です。是非、劇場にてご鑑賞ください。

 

   僕個人のアカデミー賞の感想としては、多くの人と同様に『ラ・ラ・ランド』を応援していたので